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Monday, October 22, 2018

マイケルと言う名の猫(3)

2010年9月18日 (土)

マイケルと言う名の猫(3)




明るい光がいっぱい!
その箱の一つにぼくとニンズの二人は向かった。
白い板が開くと・・・ そこには銀色のかたまりと、青いかたまりが居た!

不思議そうにぼくを見つめてきた・・・
二つのかたまりに向かっておじさんが「ドン、レオただいま」と言った。
「新しい仲間だよ!」おばさんの声が弾んで聞こえた。
また、地面に下ろされた。 今までと違った感じ。 土の匂いもしない。 ごわごわとした感じもしない。つるつるの床の上。
かすかにご馳走の匂いが・・・
突然ぼくのお腹が鳴り出した。 そしてぼくは匂いの強くするほうへ一目散でかけ出した!
銀色のかたまりと青いかたまりがのっそりとぼくの後をついてくる。
「シャー!」
「ぼくのメシだ! じゃますんなよ!」
ぼくの前に突然あらわれたごはんの山!
「うま、うま、うま! うま~!」
ぼくは食べ続けた。
「うまい! おいしい!」 はじめての味のような気もするけど・・・ とにかく、食べなきゃ! 
次はいつ食べられるかわからないから!
ちょっとつっかえそうになったけど、そんなことは構わない!

一つ目の山が無くなった。 ぼくはすかさず二つ目の山に挑んだ!
「すご~い!うまうま言っているよ」
「人間の言葉をしゃべっているようだ!」
「お腹空いていたんだね・・・ かわいそうに・・・」
ぼくの後ろから聞こえてくるニンズの話し声。
そして、気がついたらぼくはお腹がいっぱいになっていた。
マイケルの空腹は半端ではなかったようです。
ドンとレオのゴハンをほぼ完食。
食べている間中、「ウマ、ウマ!」と声を出し続けていました。
銀色のかたまりのドンと青いかたまりのレオンは、それこそ目を丸くして、この子猫を眺めていました。


二人は、威嚇するでもなく、怒るでもなく、ただ、ただ、このチビ助に圧倒されていたようです。
こんな二入だから良かったのだと思いますが、まあ、このチビ助、根性も度胸も体のサイズに合わないものを持ち合わせていました(笑
さて、喰ったら遅まきながらの挨拶を。
子猫だからって、礼儀はちゃんと躾けられていることを示さねば!
ぼくを産んでくれたおかあちゃんに恥はかかせられないからね!
ということで・・・
「お控えなすって、お控えなすって!
さっそくのお控え、ありがとうござんす。 
飯を喰わせていただきましての御仁義、失礼さんにござんす。
これよりあげます言葉のあとさき、間違えましたらごめんなすって。
手前生国と発しますは、茶畑、スーパー裏は彩の国にござんす。
いずこかの水道水を生湯に遣い、風光明媚で名高いスーパー脇の低い木をよじのぼり、やってきましたのは、茶畑は大字逃げ水、昨今改めまして水野にござんす。
おそれおおくももったいない、富士山を前にして、トコトコトコ揺られまして、どこぞのお宅様に連れてこれれましたでごんす。
稼業上、親と発しますは、名無しの野良ママ、茶畑周辺に生きる肝っ玉母さんにござんす。手前姓名の儀・・・」
僕は自分の名前を知らない!
母さんの顔・・・ 思い出せない・・・
兄弟、姉妹、仲間・・・
ええい、だからどうだって言うんだ!
「性は名無し 名は不明、人呼んで、「子猫」と発します。
お見掛け通り、あちこちの、お兄いさん、お姐さんに、可愛がられがちな、子猫にござんす。
以後面体お見知りおきのうえ、嚮後万端、よろしくお引き回しのほど、おたの申します。」
子猫は大きな二つのかたまりに向かって、長い、長い挨拶をしていました。
われわれは、彼にマイケルという名前をつけました。 
銀色のシマシマと青いズングリ・ムックリに、僕はちゃんと挨拶をした。
そして、「チビだからって舐めるなよ!」と言う意味を込めて、「シャー」の三連発。
本当はちょっぴり怖かったけれど、やはり最初が肝心。



銀シマは動かない。 青ズングリは、ちょっぴり後ずさったように見えた。 
とにかく、この二つのお山は、ぼくにシャー返しをするわけでもなく、知らないフリを決め込むわけでもない。 
ぼくはどうすればいいのかわからなかった。
ニンズと出会った時みたいにこいつらにスリスリするのは、絶対に嫌だった。
自分がまだ小さくて、だから「優しくして」なんて・・・ 絶対にお願いしたくなかった。
もしかして、またお外で生きていかなくてはいけなくなるかも知れないのに。 
弱気の虫だけは、ぼくの中で育ててはいけない、そう絶対に!
ぼくは、シャー・シャー言いながら、後ずさりをして少しづつ部屋の明るい所に移動した。
「君の名はマイケルだよ」



ニンズのおじさんがぼくを抱き上げながら話しかけてきた。
「何でカタカナの名前なんだ?ぼくは茶畑周辺生まれなんだぞ・・・たぶん・・・ 確信はないけど・・・」
文句を言おうかと思っていたら、おばさんがうれしそうに「マイコー」、「マイコー」とぼくに向かって手を叩いたり、おもちゃを振り回し始めた。
“マイケル”だか、“マイコー”だか何だかわからないけれど、“マイ”までは一緒だから、忘れちゃいけないこととして、「マイ」が聞こえたらぼくのことだと思うことにした。
心のメモ第一項として、登録完了!
そして、また抱き上げられて。
ちょっと高い位置から見る部屋の中は面白い。
銀色のシマシマも、青いズングリムックリも、はるか下にいる。
ちょっと偉くなった気分。
おばさんが銀色のシマシマと青いのを指差して、
「これが“ドン”で青いのは“レオ”」って言った。


“ドン”と“レオ”。 どこにも“マイ”という言葉は聞こえない。
そうか、こいつらは、ドンとレオって呼ばれているんだ。
ぼくを抱っこしたまま、おじさんがしゃがんだ。
ドンとレオの顔が急に近くなった。
ぼくはこっそりと爪を出す用意をした。
小さいけれど、こいつらにわかるようにうなり声を出し始めた。
「戦闘開始だ!」
「来るなら来い!」
「チビだからって舐めるなよ!」
おじさんに抱っこされながらも、ぼくは戦いの準備を始めた。 
小さな体に張り付いている筋肉に力を込めて。 
負けるもんかとつぶやきながら。



うなり声はだんだん小さくなり、マイケルはやがて軽い寝息をたてて夢の世界に溶け込んで行きました。
新しい家族を迎えたドンとレオンの静かな生活はこの日から一変し・・・